「しつけ」の名で虐待 専門家「どの家でも起こりうる」

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「しつけ」の名で虐待 専門家「どの家でも起こりうる」
峯俊一平2018年6月27日18時49分

 東京都目黒区の船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5)が死亡した事件で、保護責任者遺棄致死容疑などで起訴された父親は、当初の調べに「これまでしつけでたたいたことはある」などと供述していたという。しつけや「教育」という名を借りた虐待――。専門家は程度の差はあれ、どの家庭でも起こりうるとして、大人の自覚の必要性を訴える。

 警視庁などによると、結愛ちゃんは自ら目覚まし時計をセットして毎朝午前4時ごろに起床。父親の雄大容疑者(33)に命じられ、平仮名を書く練習をしていた。しかし、1人で寝起きする部屋は室内灯がなく、薄暗い部屋で繰り返し文字を書いていたとみられる。

 結愛ちゃんはノートに「きょうよりもっともっとあしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください」などと書き残していた。
 「しつけ」の名の下に行われた虐待事件は頻発している。厚生労働省によると、2004年1月〜16年3月に虐待死した計653人の子どものうち、81人(12%)は主な虐待理由が「しつけのつもり」で、理由が明らかなケースで2番目に多かったという。特に3歳以上に限れば09年4月以降、「しつけ」で27人(28%)が死亡し、理由として最も多い。

 青山学院大の古荘純一教授(小児精神医学)によると、「教育虐待」とは教育を理由に子どもに無理難題を押し付ける心理的虐待で、エスカレートすれば暴力も伴う。11年の学会で初めて報告された新しい考え方だ。「『しつけ』のため、というのは強い立場の人が自己を正当化する言葉。周囲の人も『しつけ』や『教育』と言われれば、虐待と気付きづらい」と話す。
 「教育虐待は決して特別な家庭に限ったものではない」と話すのは、社会福祉法人カリヨン子どもセンター(東京都)の石井花梨事務局長だ。児童相談所の委託を受け、04年から10代の子の緊急避難場所(シェルター)を運営する。これまで約360人を保護し、うち約15人が「教育を理由に虐待された」と見ている。

 子どもの成績や進路をステータスと考え、成績不振に陥れば「生きていく価値がない」「人間のくず」などと暴言を浴びせ、子どもを心理的に追い込んでいく。子どもにナイフを突きつける、物を投げるなど暴力で勉強を強いる親も見てきたという。シェルターに助けを求める程度に至らないケースも少なくないと見る。

 石井さんは「最初は『子どものため』と思っても、だんだんと独りよがりになって虐待につながる。一方的な親の思いの押しつけは虐待だと大人は認識すべきだ」と話す。(峯俊一平)